作文

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第5回   たからもの

小学校一年生の時、
「私の宝物」という題名で作文を書きなさい、と
先生に言われて困ったことがあった。
宝物が何か分からなかったのである。
見るとクラスメートの男の子は
「僕のたからものはおじさんにもらったスニーカー!」
と嬉しそうに書いていた。
その頃私は、両親以外の大人の人に
贈ってもらったお人形何人かと
土曜日の晩なんかに一緒に眠るのが好きであった。
母親がするようにちゃんと肩までおふとんをかけて、
おやすみなさい、と言って寝るのであった。

それで、もらったお人形とかを思い出しても
あの子にしようかと思えば、
もう一人は?あのカバのぬいぐるみは?と
あまりお気に入りでないものでも除外はできず、困ってしまった。
結局その授業中、何も書けずに終わってしまった。

昔おじいちゃんが、私と弟をおもちゃを買いに
連れて行ってくれたことがあった。
おじいちゃんは税務署長をしていて、
どこへ行っても堂々としていてかっこよかった。
しかし、デパートのおもちゃ売り場で
威厳たっぷりに「もーし」とお姉さんを呼ぶのは
ちょっと恥ずかしい、と思ったりした。

弟はすぐに欲しいものが見つかったが
私はあまり欲しいものが無い子供だった。
あまり反応のない私のために
おじいちゃんはここになければ次はあっち、と
一日中、おもちゃ屋さんをまわってくれることになった。
弟は疲れて、途中、大きい道沿いの
おうどん屋さんに入ったりした。

その頃はモンチッチというぬいぐるみが大流行で、
どこの売り場に行ってもモンチッチだらけだった。
マイチッチという類似品もあって
商店街のはずれのおもちゃ屋さんには、それがたくさん吊られていた。
マイチッチはモンチッチより癖のない可愛い顔立ちで
なぜだか少し寂しそうに見えた。
もうそろそろ欲しいものを決めないと
おじいちゃんにも悪いと分かっていた。
「あれがほしい」と私は言った。
おじいちゃんは何度も、「ほんとうにこれでよかとね?」
と言いながら、マイチッチを買ってくれた。
そうしてマイチッチは私の友達の仲間入りを
したわけだけれども。

今になって、あの頃宝物が何なのか分からなかった理由が
よく分かる。
あの時代、この私こそが
この世の宝物だった。
そういう時代が、確かに私にもあったのだ。





第6回   あんちゃん

安ちゃんの目はあったかい。
仕事のときはおいといて、
たとえば4人位で世間話をしている時
一番話しについていけそうにない人の目を
じっと見て話す。
その時の目が、あったかい。
どういうふうにあったかいかというと、
冬山で遭難した人が助け出されて山小屋に連れてこられて
「とにかく火のそばへ!」という時の暖炉の炎、
まさにそんなふうにあったかい。
「有効」、と書いてある。
人間はこんな炎のようにもなれるんだ。
ああ、人間はどんなふうにだってなれるんだよ、
私たちはさあ!




第7回   かみさま

この世に神様なんていないにしても、
嫉妬の神様はいると思う。
だって私!嫉妬なんかしたくないんだもの!
なのにいつの間にか私の中にうずまいて
私とそっくりの顔をしてとんでもないことを考えだす。
これはスゴイだろう、決して人には言えないね、
いや私の方がもっとスゴイよ、と
嫉妬話は面白い。
みっともなく理不尽で、その上意味不明。
しかし当人は必死なのだ、
まるで神様に「はい君、そこで苦しんどいてね」、と
道の真ん中に置いてかれたようだ。
心にいっぱい自分で傷をつけて
進むのだ、どこまでもどこまでも。
そうしたら一瞬、深く静かな空に出会うことがある。
立ち止まっていい時が来たのだ。

ああここまでの道のりは、
確かに私だけの道のりだった。
みっともなく理不尽で意味不明、
そうして確かに私だけの道のりであった。

嫉妬の神様にありがとうは言わないが、
おぬしなかなかやるな、と言いおいて
また自転車を漕ぐのである。

少し元気になっているのであった。





第8回   しけん

小学校の頃、ピアノの試験を受けたことがあった。
家から少し遠い会場で、
体育館のステージみたいなところでピアノを弾いた。
たしか、全員が引き終わってからすぐに
判定が出たのだと思う。
私の判定はDだった。
ABCDEのD。
アルファベットは慣れてなかったけど
大体どの辺かは分かった、が
分からないふりをした。
全然どうでもいいことのように
私の中で片付けた。

ピアノを習っていた。
練習熱心ではなかったが
好きな曲は何回でも弾いてしまい、
その結果早くあがってしまい、つまらなかった。
それ以外はただ弾いていた。
ところてんが押し出されるように課題は進んだ。
やめるのだけは嫌だった、
母親の手前、自分からやりたいと言って始めたこと。
ようこちゃんはピアノが上手、と言われると嬉しかったが
中学に入ると私以上の子なんてたくさんいることがすぐ分かり、
避けてしまった、
ピアノが上手い隣のクラスの女の子。

自分が作った曲でコンクールの予選に出たこともあった。
ようこちゃんは作曲が得意、と言ってくれた山田先生。
でもあっさり予選落ちで、それを会場で母親に聞いたとき
どうでもいいふりしなくちゃ、と思って
友達と遊ぶことに夢中になってるふりをした。
今でも覚えてる、逆向きに駆け上がったエスカレーターと
紛れ込んだボーリング場。

小さい頃、試験を受けていてよかった。
努力してもD判定かもしれないが
努力しなけりゃ確実にD判定。
努力しなけりゃ確実に、D判定。



第9回   みがく

この前、友達が遊びに来るというので
洗い物を片付けてたら、流しの下の扉が汚れているのが見えた。
それが、ふきんで拭いたらすぐ落ちる汚れなんである。
要するに怠慢じゃ!と思いながら
ごしごし見えてきた汚れを拭いていたらふと思った、掃除は愛情だ。
そうだ、ひたすら磨くんだ、ごしごしと!
頭の中だけじゃだめだった、磨いていたら見えてくる、
ここもここも汚れてた〜!

横山先生はピアノの外装の修理師だ。
先生は小柄で声も小さく、仕事をしてる時もとても静かで
もくもくと作業する。
そして周りに新聞紙やビニール袋の山ができていく。
時々子供がその様子をじっと見てたりする。
「このピアノは僕みたいに木が痩せてるからこれで精一杯。」
と言って出来あがったピアノを見たら、ぴかぴかだ。
なんというか、キレイさに清潔感があって
冷たくない。
清潔感は愛情からしか生まれないのだ、
新築マンションのモデルルームからは清潔感を感じないように。
先生の仕事ぶりは静かで私はいつも見逃してしまう。
じたばたしている私のそばで、良いことも確実に遂行されている、
素晴らしい世界に私は生きている。

その横山先生が趣味で木彫りをやっていて、美術展で賞を取ったというので
私は仕事前の時間に慌てて見に行ったんだよ。
そしたらその作品というのが、
ちょうど顔が映る位の鏡に木の杭が刺さってて
鏡がぱりーん!と割れてる、というものだった。
タイトルが「割」、と筆で書いてあった。
それを私はおっちょこちょいで、「喝!」と勘違いしてしまったので
鏡を覗くと映ってる私の顔がぱりーん!と割れて
先生に「喝!」と言われてるようでかなり愉快になった。
元気のある時は愉快、けれどない時は先生を思い出してぐっと胸にくる。
そんな歌を私も作れたらいいなあ。

磨いて磨いて、殻を割って、今日も誰かに会いに行きたい私が
映ってる、映ってる。




第10回   お似合い

この前何気に冬物衣類を物色してたら、
一着のコートが目に入った。
なんの変哲もない茶色のコートだったが
なんとなくその場で試着してみた。
そうしたら!似合うのだ、これが!
似合うというより、それまでの私が
ちょっとつま先立ちした位のちょうどいいレベルで
かなり様子がよくなるのだ。
試しにコートを元あった場所に戻してみた。
するとなんの変哲もないコートだった。
つまりそのコートも、私が着ると断然良く見えるのである、
驚いたことに!
びっくりしてその一連の動作を何度もやってしまった。
その時のお財布と相談して、買わずに店を出たんだが。

幸せな気持ちは持続していた。
なんの変哲もないとは素晴らしい。
似合うということはそういうことだったのか。
つまりはそんな幸せなことだったのか。
今まで私はそんな出会いに導かれて
ここまでやってきたに違いない。
手に入れるだけじゃだめなんだ、
もう出会ってるんだ、私達はさあ!




第11回   ともだち

彼女は同い年だ。
最初は知り合いの友人、というだけだった。
写真が得意で、友達のバンドの粋なチラシを
作っているのを知っていた。
ある時私がすごく悩んだことがあった。
それまで知らなかった嵐の中にいるようで、
しかし私が悪いことも分かっていて
それはそれで四面楚歌だった。
ワラをも掴む感じで
その悩みに接点のある彼女に、私は電話をした。
そうしたら、電話に出てくれた声だけでほっとした。
別に特別なことを言うわけでもない、
「そらそやなあ」とか、「あの子はそういう子やって。」とか
電話の向こうの揺るぎ無い声を聞いて
私は落ち着いたんだった。
優しいってこういうことを言うんだな、とだけ思った。

弱り果てて、彼女の職場に行ったこともあった。
もう仕事が終わる時間で、彼女は当たり前のように
一緒にご飯を食べてくれた。
遊びに誘ってくれたこともある、が
私の都合でいつも行けなかった。

彼女はよく働く。遊びもちゃんとする。
好きなものを知っていてそれを大事にできた。
今年の夏、長いこと勤めてた職場を辞めて
ついでに引越しもした。
彼女の新しい部屋に私は呼んでもらい、
大阪駅のキオスクで働く、という話を聞いた。
えーーっキオスクは大変やろう!
立ちっぱなしで暑そうやし、第一あんなにてきぱきと・・
と言いかけてやめた。彼女ならできる。
「やりたいことやるんなら今の内やで、井波さんっ♪」
と元気な顔で私に言った。
優しくしたくても、人間その一個分しか優しくはできない。
できないものはできないのだ。
しかし私はその一個分、ちゃんと使ってるだろうか?

そうしてまたある時、私は悩んでどうしようもなくなった。
心細かった。立ち止まるとそこは大阪駅の構内で
人がたくさん周りを通りすぎ、
私はどこへも行き場がなかった。
ふと彼女の働く店が近いことを思い出し、
その方向へ呼ばれるように歩いて行った。
すると彼女が見えた、ハイソックスに可愛いメガネ、
ショートカットの彼女が。
お客さんの話を聞いてるようだったが
私にはほんのり周りが明るく見えた。
彼女が輝いていたわけではない、
彼女は周りを照らしていた、人間一個分の明かりで。
小さな灯台のようだった。

しばらく見ていると彼女は私に気づき、
一言、二言話してその場を離れた。
泣いてしまわなくてよかった。

困った時、彼女がどこかで生きていると思うと
ほっとする。
あの岬のはしっこで
灯台は今日も正確に、周囲を照らして回っている。
ライナー・チムニクを教えてくれたのも
彼女だった。













第12回   実際のところ

声がでなくなった。
びっくりだ。
下手だと悩むことはあっても
思うように歌えないことはあっても
出ない!ってことはなかった。
そう言えば京都駅ビルのコンテストに出た時、
当日風邪で出なくなったことはあったな。
母に、「本番までは歌いなや」と言われて
見事本番には歌えたのだった。
それで妙につけてた自信も今回、粉砕した。
困った。
母に応援してもらう年は過ぎてしまった。

中学の時、ピアノ発表会で本番前、
めっちゃ緊張していたら
先生が出番待ちの私を見かけて
「陽子ちゃん!頑張ってね!」と
かなりついでのように言いおいて走っていった。
先生は忙しかったようだ。
しかし地震でも起きないかなと思う位緊張してる私には
かなりちぐはぐな感じがした。
もっと劇的に励ましてもらえるような気になっていたのだ。
そして、そういうものか、とすうーっと落ち着いた。

つまりこの世界での私のサイズを思い知った。
実際私は、緊張しなければならない程注目はされてない。
有名、無名ということではなく
もし私が誰かを幸せにできるとして、
それは私一人分の力量でしか無理で
緊張するとかもう、関係ないところで
すでに行われている。
いつも小さなことを虫メガネで見て
大発見だ!とかやってるから
私のサイズを忘れてしまう。
声が出なくて悔しい。
これも私一個分の悔しさだ。
それは小さい。世界はもっと大きくて
だから私は憧れて、旅に出たくなった。
好きなことだけ考える。
憧れのことだけ考える。
悔しい私をそのままに、
包んでくれているこの世界のことを考える。
実際、という言葉が好きだった。
仕事のできる人が使っていた。
実際、この世界で私ができる最善のことを
明日もあさってもやりますので
見守っていて下さいね、神様。




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Akiary v.0.51