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第24回   デイビッド

「David!We loves you!」
と、お客さんのひとりが叫んだ。
去年のデヴィッド・バーンのライブでのことだった。
お客さんは外国人がたくさんで、
ミナミの外人全員集合!みたいだった。
デヴィッドが大阪に来るんだってよ、行かなくちゃ!
みたいな感じでみんな嬉しそうだった。
ライブはスンバらしかった。
いいものを観ると比較対象がいらなくなる。
友達とスタバで泉のように湧いてくる「よかったなあ」を、
おなかの底から言い合った。

一年前のことだった。
だいぶ前のことのような気がする。
その時、一途に決心したこともあったような気がするが
忘れた。
ただ、We loves you!のことばだけが
明るく胸の奥で光っていて
思い出すことができた。
私にとっての希望みたいなもの。
音楽もいのちも愛も、
すぐそばに、
泉のように、
あるんだね。









第25回   ここからしか        

なんだか悲しい気配がする日だった。
なんでも良い方に考えられる日もあれば逆もある。
友達の言った好きなせりふを思い出す。
「年寄りの繰り言は聞きたくない」
彼女は映画館で、一緒に『初恋のきた道』を観終わったあと
画面にペットボトルを投げつけるようなふりをして
軽快に言ったのだ。
あーそう言えばいいのか。
他のお客さんには絶対分からないように言える所が
彼女の美点のひとつだと思う。


今日私の仕事場に清水くんとあーちゃん、という
音楽友達がやって来た。
二人はどこから見ても妖しい様子で店内に入ってきて
私が店を閉める間、ずっとピアノで遊んでいた。
ひとりで後片付けをしてる間、楽しそうな気配がしているのは
なんだかいいものだった。
ほっといたらいつまででも遊んでいそうだった。
この二人は面白いことしか言いたくないらしい。
その内、役に立てないことで悩んでいた私の心が軽くなった。

お昼を食べ損ねて空腹だったので、ラーメン食べるのを
付き合ってもらった。
大体、清水くんとはラーメン、と相場は決まっているのだ。
「あーちゃん」とは今日初めてちゃんと話したけど
この二人は私を散々笑かして帰って行った。


役に立とうなんて思うのはやめた。
明日は小さい外国へ行く。
自分の言いたいことの100分の一も言えないので
役に立つなんて言葉もない。
ぎりぎりで困ってる私はかなりおかしい。
地平線の上にひとりっきりだ。
でもここからしか繋がらない約束。
ペットボトルを投げようとしたかっこいい彼女と
一緒に冒険に行くことになっている。











第26回   いつか私からも。

とある事情で、冬の街を自転車で
かっ飛ばしてみました。
お気に入り音楽を聴くウォークマンは忘れてはいけません。
もうすぐ終わっちゃうなんて、大好きな冬。
「まじっすか!」とでも言いたい位冷たい風。
細胞に行き渡ってます。

大好きな店で冬の空の観察。
薄曇りの空はだんだん雲がはっきりしてきて
夕日が沈むにつれ、青空も見えてきました。
あの辺に春が待機してる。
冬の木は葉っぱが無い分、空がよく見えましたね。


あー明日は確実に晴れです。
と自分に予言して、歌いながら帰るのでした。
希望の歌を。いつか私からも。







第27回   この夜に。

その声、その声、その声が聞きたかった。
ああ、ほっとする、ほっとするな。

ああ、この夜、この夜。
確かに繋がった、この夜。


あしたもあさっても、何年後かも、
今が無ければ無いんだね。


覚えておこう、この夜を。





第28回   伸ばしてね。

「自分を守るために誰かを傷つける」、かあ。

あかん。
私これ。私これだ。
なーーーーんだ。弱虫だな、私。
よし、頑張ろ!


昨日は吉野くんとベティさんと今田さんと平田さんが
家に遊びに来てくれた。
じゃなくて、ミーティングで集まった。
ベティさんは控えめな性質で
面白いこと言う時も声を大きくしないので、
そしてベティさんは大概おもしろい事しか言わないので
ベティさんが何かボケたりつっこんだりする時は
耳をすますような感じでみんな注目するのが
いい、と思う。
素敵だ!ベティさん。
音楽も、こうでなくてはね。
(しかしなんで彼の名前はベティさんなのだろう?)


このミーティングはシェリル・クロウのカバーをするバンドをしようってことで
めでたくバンド名が決まった。
『筋のばし』って言うんである!!
カッコイイ!!
さあ、今日も伸ばして行きましょう!!
(いいのか?!)









第29回   3月28日 晴れ

どうにも落ち込んでしまった私の隣で
あの人は、ギュイーンって笑ったんだなあ。
私も笑わざるを得なくなって、
そしたら、頭が正確に働きだした。

優しい人に、優しいなあと言ったら
怒ったように
私は冷たいよ〜、と言っていた。
優しさの厳しさを知ってるからだろうか・・

ギュイーンって
あれ位たくましく
小学校の教室の書初めみたいに
今日もすこやかに
笑顔の裏にちゃんとたたまれていた
優しさを鍛えているのだろう。


さあ、私も。
行ってこよう。







第30回   それはほんとに

こっちゃんのライブがよかった。
こっちゃんは、ピアノと一緒に歌っていて
自分とピアノの間に真珠のような、
ほのかに輝く何かを抱いてるように見えた。
そしてそれを、ライブ中ずっと、
大切に、息づかせて輝かせていた。
もうそれは命だった。
拍手するのもうっかり忘れそうであった。
こんないいミュージシャンを今頃知るなんて!
こっちゃんとは私、何年か前に対バンしてるのである。
でも私はこっちゃんの次の出番で、
自分の出番前は人のステージを見る余裕が無いのである。
というのは建前で、つまりは
いろんな音楽に貪欲に触れようという向上心を
持たなかったのである。
世界中の音楽家達よ、
今こそこの私に、
「アカーン!!」のツッコミを。


その後しのきちと、
こっちゃんについて語り合った。
こっちゃんを通して私は良い音楽に触れたのである。
それはすでに、遠くで光る希望の星であった。
希望の星に照らされながら、
言葉は尽きなかった。
私は生きてることが嬉しかった。
まっすぐに話ができる、親愛なる友よ。
遠く続く道のりも、君がいれば大丈夫。


ミノヤホールの前に帰ってきたら
こっちゃんが出てきたとこで、
お客さんも少しいて、
その場でこっちゃんは私にいきなり質問した。
「クオレさんの、判断する時の基準て何ですか」、と。
「はあ、それはですね・・感動です」
と答えるとこっちゃんは、
「私は好きキライなんですよね〜!だからあかんのかあ〜!」
と自問し出した。
それを見ながら、私も好きキライってこと多いかも、と思い当たった。
あ〜そうなのかも。


しかし感動は好きキライを超えた所にあるのだ。
好きキライをのびのび言える素直さはずっと持ちたいと思うが、
好きキライは注意が必要だ、守りに入ってる状態から抜け出せなかったり、
肌触りのいいものだけ求めてたり、
他を排除する理由にしてしまったり、するからな。


昔まだ私が小さかった頃、
母親が私にかけた魔法があった。
それは、「ほうれん草を食べたら美人になるよ」
というおまじないだった。
弟にはポパイみたいに強くなれるよ、と言えたが
女の子用に母が無理やり、編み出したのだった。
おかげで食べ物の好き嫌いは無く育ったが、
私が好きだったのは、そう言う時の母の表情だった。
いたずらっぽい、魔法使いのような
大人しかできない魅力的な顔だった。
今でも思い出す、私の憧れの大人像のひとつである。









第31回   現代史

戦争反対というより、私は殺人反対としか言えない。
でもこの両者にはすごい距離があるのだろう。
と思っていたら、
前から読みたかった『そうだったのか!現代史』が平積みされてたので買った。
私は本を読み出すと止まらない。
歩きながらでも読む。
通りを、ただいま読書中!のオーラを振りまきながら歩く、
かなり迷惑な通行人になる。
私はかなり風化したスポンジのようだ。
吸い込みが悪すぎる。
泡立つどころではない。
読みながら単語がぼろぼろ道にこぼれていく。
いきなり開かれた世界の文章を、
頭から全身に浴びるようにしてとにかく読む。


第ニ章の、タリバンがバーミヤンの大石仏を破壊し、
「そのあまりに野蛮な振る舞いに、世界は慄然としたのです。」
という文章を読んで、
私はそんなこと知らなかった、という事実に慄然とした。
飲酒を禁止する理由で飲食店にあったビールやワインを叩き割り、
偶像禁止という理由で映画館のフィルムは焼き捨て、
音楽禁止、女性の労働、教育、外出も禁止、
サッカー競技場では犯罪者の公開処刑、
というタリバンは信じ難いが、
その事実を今まで知らなかった、私こそが信じ難い。
世界が慄然としていたその時、私は何をしていたのだろうか。


テレビのスピードについて行けなくとも、
本屋さんに行けば読書の得意な私に、いくらでもいい本は揃っていた。
今じゃなくても、世界情勢について興味を持つチャンスはいくらでもあった。
岸惠子の『砂の界へ』を読んだ時。
ウェッティーと『シュリ』を観て、朝鮮の歴史を教わった時。
茨城のリ子のエッセイを読んだ時でもよかったし、
橋本治の『90's』が読めなかった時でも、
同時多発テロの日、バンドの練習を急遽中止にした日でもよかった。


私は何をしていたのだろうか。
どうせ肌触りのいい事ばかり求めてたんだろうよ。
道理で私はこの通り、
かなり風化したスポンジのようになってしまった。
やっと見つけた、やっぱり自分の敵は自分の中にこそいた。


もっと頭使え、
もっと体使え、
もっと心をくだけ、
ここから死ぬまで、
始め続けろ、馬鹿者よ。






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Akiary v.0.51